はじめまして。セレクト文庫店主です。
ご縁あって、この春に筑波山を越えて、大洗から下館にやってきました。ネットで賃貸物件を探すなかで、これだ! と思うものに出会いました。それがこの店の地である筑西市甲、田町の小さな店舗つきの戸建住宅です。
ここは数年前まで、はんこ屋さんだったと、地元密着の不動産会社の社長に伺いました。
2メートル×3メートルのこの狭小空間を、うまく活用できないか? 自分たちの好きなことを活かして、小さな空間だからこそできることはなんだろう? 結果生まれたのが、古文庫本と茶器の小さな店・セレクト文庫です。
はんこ屋さんから、ぶんこ屋さんへ。ここは、言霊のいる場所だと思いました。はんこもぶんこも、どちらも文字を写すものです。はんこもぶんこも、文字で人と人の信頼をながくつなぐものです。
そうだ。小さな店だからこそ、文庫本だけの古本と、磁器を中心とした小さな茶器の店をやろう。文庫本も茶器も、どちらもスマホと同じ、片手でハンドリングできる類の文明のコミュニケーション・ツールです。小さな利器を並べるのなら、小さな店こそがぴたりと来ます。
Selected, Small, Slow。この3つのSによって、いま文庫本は、その意義を再発見されつつあると思っています。
文庫本とは、市場によって、すでに選ばれたものです。よく売れたハードカバーの新刊書籍だけが、選ばれて文庫本になります。この本は、広く遍く読まれてほしいという望みの賜物なのです。
また、文庫本はとても小さいので、持ち歩きに便利です。スマホと一緒に持ち歩けます。加えて値段もハードカバーよりも安い。どこでも手軽に手に入れていつでも読める、いわばモバイルコンテンツとしての文庫本は、良い本を人々にどんどん普及させるための、日本の優れたメディアフォーマットです。
さらに文庫本は、綴じられた紙に刷られた文字列です。スマホの、解像度が粗く、すぐになにかとリンクされてしまうテキストと比べて、その没入感が、半端ないのです。SNSによるアテンション・エコノミー全盛の饒舌の時代だからこそ、文庫本を片手に、ゆっくりと茶を飲むという、真逆の、黙して安らぐ、あえてつながらない、スローな独り時間が大切ではないかと思うのです。
こういった文庫本の時間と、私の妻が笠間の工房で制作した茶器を新結合した、Selected, Small, Slowな店。それがセレクト文庫です。6月下旬にはなんとか開きたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。