本日は、セレクト文庫はどのような「セレクション」をしているのか? についてお話します。 最初の投稿で、文庫本になっている時点で、その本はもう市場原理で選ばれていると書きましたが、その条件によってだけですと、この世界には大量の文庫本の古本が存在しています。これらの膨大な文庫本の海で、どのような本を拾い上げて2坪に満たない空間に並べるのか? セレクト文庫は、5つの視点を持って本をセレクトしています。 ひとつ目は、すぐには役に立たない本を、選んでいます。仕事に役立たない、点数稼ぎにならない、「こんな本を読んでます」と上司に言っても全然褒められない。そういう本です。すぐに役に立つ本は、すぐに役に立たなくなります。すぐ役立つ本の多くは、すでにYouTubeに取って代わられています。すぐに役立つ本は、私としては情報商材と大差がありません。 ふたつ目の視点は、読むのに集中力が必要な本をセレクトします。読書のコツは、最初の50ページくらいをとくに集中して、メモなども取りながら、時間をかけて熟読することです。その50ページが矢鱈と濃い文庫本を意識して選んでいます。よくベストセラーなどの帯で、「面白すぎてあっという間に読み終わった」みたいな惹句が書いてありますが、読書にコスパ、タイパを求めるなら、YouTubeにはかないません。 みっつ目は、レーベルです。岩波文庫、ちくま文庫、河出文庫、講談社文芸文庫、講談社学術文庫などを優先して選んでいます。文庫本はハードカバーと比べても、その質において、レーベルのブランドがさらにものを言いうジャンルなのです。古書市場では、良質な文庫本は加速度的に希少になってきており、文庫本の値打ちにピンキリの格差が出て来ています。 ブックオフなどの、単にそのコンテンツが世に出た新しさと、大衆の人気だけで売値を決める古書店では、100円でも売れない大量の文庫本が産廃業者に回収され、燃やされてCO2に変えられてしまう一方で、優良な文庫本古書は、ニッチな市場ではありますが、その値打ちが増しています。 そしてもうひとつ大切にしているのは、できるだけ初版1刷をセレクトしています。版とは原稿のこと、刷とは印刷物のことです。はんこで言えば版は印鑑そのもの、刷は押印された紙のことです。 1刷は「いちずり」と読みます。「いっさつ」だと「1冊」と紛らわしいので、読み分けているのです。...
古文庫本と茶器の小さな店。 二坪に満たない店には、物故作家の文庫本のみ並べています。 かわらない一冊、なつかしい一冊、きえてほしくない一冊をセレクト文庫。 妻が笠間でつくる小さな茶器もご覧ください。 しもだて美術館と板谷波山記念館のあいだ。